英語・英語学
写真はグリニッジ(ロンドン)のカフェで見かけたものです。さまざまな卵料理が描かれているのが見えるでしょうか。写真の上部中央にEggsactlyとあるのは、Exactlyの語頭とeggをかけているものと思われ、新たな語を作る仕組み(=語形成)の1つである「混成」による語(eggsactly < egg + exactly)の一種と考えられます。
私の研究分野は、英語学、特に形態論の分野であり、このような語形成の仕組みや語の内部構造を研究対象としています。現在のテーマは、新古典複合語と呼ばれるもので、philosophy(哲学)、electrophile(求電子剤)、otorhinolaryngology(耳鼻咽喉科)など、ギリシャ語やラテン語といった古典語由来の要素を含む表現です。これらは一見難しく見えますが、部分的にでも理解できれば(例:electro-=電気/電子、oto-=耳、など)語全体の意味もわかりやすくなるでしょう。学術用語に多く見られる新古典複合語の分析を通じて、医学・薬学系専⾨⽤語に対して形態論からのアプローチを進め、研究成果を学部生対象の英語の授業にも活かしています。
研究室メンバー
研究テーマ
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誰もが持っている、新たな語を作ったり理解したりする力に注目!
難しい語を目にした時、あるいは覚えようとする時、その語の内部構造がわかれば理解しやすく、また、覚えやすくなることでしょう。
語を作る仕組み(語形成)の知識は、実は意識していなくても誰もが持っています。だからこそ、新たな語が生み出され、聞いた人もそれを理解することができることになります。皆さんも気づかないうちに新しい語を生み出しているかもしれません。研究などで新たなもの・事象を発見した場合には(その分野のルールにのっとって)命名することになりますね。もっと身近なところでも新たな語が生み出されているものです。広告などのおもしろさも言葉遊びということで語に関する知識を前提としているものが数多くあります。また、「リヤカー」と「リアウィンドウ」の「リヤ/リア」はいずれも英語のrear(後ろ)に対応するなど、語の内部構造に気づくとおもしろいのではないでしょうか。
授業などで薬学関連の英文などを読む際にも、突然「この語を3つに分けてみましょう!」などと呼びかけて語形成の仕組みに慣れていただくようにしています。
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新古典複合語とは?
新古典複合語とは、ギリシャ語やラテン語などの古典語由来の要素を含む語です。
冷え性や熱中症などの体温調節に関わる「AVA血管」のAVAの部分は、arteriovenous anastomoses(動静脈吻合(どうじょうみゃくふんごう))の略語となりますが、このうち、arterio-(動脈の)、venous(静脈の)、anastomoses(anastomosisの複数形)に含まれるstoma(口)の部分はいずれも古典語由来の要素であり、arteriovenousもanastomosesも新古典複合語となります。
このような一見難しい語だけでなく、bioscience(< bio- + science; バイオサイエンス)もbiosynthesis(< bio- + synthesis; 生合成)もbio-(生物、生命)が古典語由来なので、新古典複合語です。neurodiversity(< neuro- + diversity; 脳の多様性、神経多様性)やcomputerphobia(< computer + -phobia; コンピュータ恐怖症)など、新たな新古典複合語もどんどん誕生しています。(neuro-(神経、脳)、-phobia(恐怖症)が古典語由来の要素です。)
新古典複合語は、形態論において例外的な扱いを受けることが多いのですが、医学・薬学関連ではよく用いられていて身近に感じられる研究対象です。