2-2.研究紹介

研究紹介

古くから自然が創り出す様々な天然物が「くすり」そのもの、あるいは「くすりのたね」として利用され、創薬の発展に多大な貢献をもたらしてきました。最近の科学的理論や技術の急速な発展に伴い、新しい天然物の発見、構造解析にかかる期間が大幅に短縮されました。その結果、全く新しい骨格・構造をもつ天然物を見つけ出すことは極めて難しくなり、製薬企業の多くは天然物の探索研究から撤退する傾向が見られます。

ところで、地球の約7割は海であり、いまだ未知の生物が多数生息しています。従って、その二次代謝物の中には陸上生物では生産できない斬新な化合物の存在が期待できます。私たちは亜熱帯気候に位置し、多種多様な海洋生物が生息している東南アジアの専門家の協力を得て、海洋天然物をリード化合物とする創薬研究に力を注いでいます。

1. 含窒素キノン系生物活性天然物の全合成研究

約30年前、京都山科の土壌から採集した放線菌(Streptomyces lavendulae No. 314)の培養液から極めて強い抗腫瘍活性を示す一群のイソキノリンキノン抗生物質を発見し、サフラマイシンと命名しました。(千葉大・医・新井正教授と共同研究)本系天然物の基本骨格は斬新ですが、天然物として極微量にしか得られません。私たちはサフラマイシン Bをはじめとするいくつかの天然物の全合成に成功しました。一方、青色海綿が生産するレニエラマイシン海洋天然物はサフラマイシンと酷似した構造を有しています。そこで、これまでに蓄積してきた教室の財産を生かしてレニエラマイシン類の合成研究を展開し、いくつかの化合物の全合成に成功しました。

2. 強力な抗腫瘍活性を有する海洋天然物の探索と生物活性発現機構の解明

エクチナサイジン743(Et 743)は、約20年前、米国イリノイ大学のRinehart教授により、カリブ海に生息する群体ホヤEcteinascidia turbinataのメタノール抽出エキスから極微量発見された海洋天然物です。その後の精力的な創薬研究を経て、Pharma Mar社(スペイン)によりヨンデリス(トラベクテジン)として、2007年、欧米において上市された話題性の高い海洋天然物です。本品は特に軟部肉腫・粘膜型脂肪肉腫に有効であり、乳癌、ホルモン耐性前立腺癌、肺癌に対する臨床試験も展開されています。私たちは、約10年前からタイ国チュラロンコーン大学薬学部・カニット博士(Dr. Khanit Suwanborirux)の協力を得て、同国に生息する海洋生物が生産する二次代謝物として強力な抗腫瘍活性を示すイソキノリン系天然物を発見しました(詳細は国際交流を参照してください)。



まず、プーケット島沿岸に生息する群体ホヤEcteinascidia thurstoniはEt類を生産することを明らかにしました。次に、バンコク東側に隣接するチョンブリ地方の沖合に位置するシーシャン島沿岸に生息する青色海綿Xestspongia sp.がレニエラマイシン類を生産することを明らかにしました。また、青色海綿を食料として生息するウミウシJorunna funebrisからレニエラマイシン誘導体の単離に成功しました。なお、いずれも抽出に先駆け、KCN前処理により不安定な部分を化学的に安定化することによりグラムスケールで入手することができました。そこで、マイナー成分の構造解析と化学変換による様々な誘導体の合成、さらにはヒト実験腫瘍細胞に対する細胞毒性試験による構造と活性発現の関係を解析し、活性発現に必要な構造単位の解明をめざしています。

本研究はチュラロンコーン大学薬学部(タイ)との共同研究としてスタートしましたが、最近、フィリピン大学海洋資源センターが新たに加わり研究を展開しています。

3.天然物を創薬情報源とする低分子医薬品のデザインと合成

抗腫瘍活性を示すイソキノリン系天然物の様々な部分構造を化学合成し、生物活性試験結果から、開発候補化合物の選定と大量合成手段の確立を目指しています。

4.抗酸化作用を有する天然物ライブラリーの構築と新しい脳機能障害改善薬の創製

キノン型天然物は、本来、還元体であるヒドロキノン型で天然に存在している可能性に興味を持っています。後者は還元性を有していることから、ラジカル消去剤としての利用が期待できます。一方、タイやインドに生息する薬用資源植物には抗酸化作用を示すクマリン類の存在が知られています。そこで、様々な天然物について、ラジカル消去活性を指標としてスクリーニングを行い、脳内の酸化ストレスの防御による痴呆症改善薬の創製をめざしています。このプロジェクトはコンケーン大学薬学部(タイ)と全インド医科学研究所との国際共同研究です。

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