プロテオーム解析

 私たちは、プロテオーム解析という最新のタンパク質解析技術を用いて研究を進めています。プロテオーム(Proteome)という用語は、「タンパク質」を表すProteinと「すべての、全体」を表す接尾語である-omeが合わさった造語で、プロテオームは、1995年に初めて登場した新しい概念です。プロテオーム解析は、すべてのタンパク質の発現を網羅的に調べる実験手法のことです。
 プロテオーム解析を行なうには、重要な技術が二つあります。タンパク質の分離と質量分析です。細胞や組織から抽出したタンパク質を分離し、個々のタンパク質の量を測定する。次に、そのタンパク質の種類を特定するために、質量分析計という機器で目的のタンパク質の分子量を測ります。この技術が開発されたおかげで、生物学の研究効率が飛躍的に高まりました。以下に詳しく説明します。
 まずは、タンパク質の分離について説明します。下の図は、プロテオーム解析で非常に有効な分離手法として知られる蛍光ディファレンシャル二次元電気泳動法(蛍光2D-DIGE)です。

 二つのサンプル(コントロールと薬物処理した細胞)からタンパク質を抽出し、蛍光色素と呼ばれる特殊な色素でラベルした後、二次元電気泳動を行なってタンパク質を分離します。すると、コントロールに含まれるタンパク質は赤色に、薬物処理細胞に含まれるタンパク質は緑色に見えます。図中で赤色或いは緑色に光っているスポット一つ一つが、タンパク質一つ一つに相当します。これが、細胞に含まれるすべてのタンパク質(プロテオーム)です。得られた二つの像(プロテオーム)を重ね合わせると、二つのサンプル間で、同じ量だけ発現しているタンパク質は赤と緑の中間の黄色に見えます。コントロール(赤)と比べて、薬物処理細胞で発現が増加するタンパク質(緑)は、スポットが緑に見えます。逆に、薬物処理細胞で発現が低下(コントロールで増加)するタンパク質は、スポットが赤く見えます。このように、蛍光2D-DIGEは、二つのサンプルに含まれるすべてのタンパク質の発現の違いが一目で分かることから、生物学の研究で非常に有効な手法として知られています。
 更に研究を進めるためには、発現が異なったタンパク質スポットが、どのような種類のタンパク質なのかを同定する必要があります。タンパク質の同定には、質量分析計という機器が活躍します。下の図は、タンパク質同定の手順を示しています。

 先ほどの蛍光2D-DIGEを行なったゲルイメージは、特殊な器械でイメージを取得したもので目では見えません。そこで、目で見えるようにタンパク質染色液で青く染色した後、二つのサンプル間で増減が見られたタンパク質をカッターで切り出します。タンパク質は、そのままだと分子量が大きすぎて正確に質量が測れないので、次に、切り出したゲル片をトリプシンと呼ばれるタンパク質分解酵素で処理することで、タンパク質を断片化します。生じたペプチドを回収して、ターゲットプレートと呼ばれる測定板に得られたペプチドを載せると質量分析計で測定することできます。以上の操作を、ゲル内消化と言います。

 得られたペプチドを質量分析計(上図左上の写真)で測定すると、MS(マス)スペクトルと呼ばれるデータが得られますが、このスペクトルの横軸はペプチドの分子量で縦軸がピーク強度になります。つまり、それぞれのペプチドの分子量がこれで分かります。
 このペプチドの分子量を元に、タンパク質を同定するわけですが、同定の方法はペプチドマスフィンガープリント法(PMF法)と呼ばれます。フィンガープリントというのは、「指紋」という意味です。つまり、PMF法は、警察の犯罪捜査で使われる「指紋照合」と良く似た原理です。警察は膨大な指紋のデータベースを持っており、何か事件が起こると犯行現場から指紋を採取し、データベースに登録している指紋と照合します。タンパク質同定もこれと同じで、タンパク質のアミノ酸配列は世界的な機関でデータベース登録されています。目的のタンパク質の分子量を測定して、データベースから測定値と同じ分子量を持つタンパク質を検索すると、目的のタンパク質がどういうタンパク質なのかが瞬時に分かる仕組みになっています。質量分析計を用いたタンパク質の同定は、現在世界中で活用されています。ちなみに、島津製作所の田中耕一先生が、2002年のノーベル化学賞を受賞しましたが、タンパク質を質量分析計で測定するための方法(試薬)を開発したという功績が認められたためです。タンパク質を質量分析計で同定する技術が開発されてから、研究効率は飛躍的に高まり、バイオ分野においては、必須の技術になっています。
 私たちは、NVL2の機能を解明するために、プロテオーム解析の技術を活用しています。


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