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【プレスリリース】「ヒト細胞内でRNA分解時に働く因子の役割を解明」(生体分子学:長浜正巳教授)

2022.07.28

近畿大学農学部 食品栄養学科教授 増田誠司、京都大学大学院 生命科学研究科研究員 藤原奈央子、明治薬科大学 薬学部教授 長浜正巳(生体分子学研究室)の研究グループは、「MPP6」というタンパク質が、細胞内で不要になったRNAを分解するのに重要な役割を果たすことを明らかにしました。プレスリリースの内容は下記のとおりです。

ヒト細胞内でRNA分解時に働く因子の役割を解明 細胞内におけるRNA分解機構の全容解明に期待

 近畿大学農学部(奈良県奈良市)食品栄養学科教授 増田誠司、京都大学大学院(京都府京都市)生命科学研究科研究員 藤原奈央子、明治薬科大学(東京都清瀬市)薬学部教授 長浜正巳らの研究グループは、細胞内で不要となったRNAを分解する際、「MPP6」というタンパク質が重要な役割を果たすことを明らかにしました。本研究成果は、今後細胞内でのRNA分解機構の全容解明とともに、RNAの蓄積を原因とする疾患の治療法開発につながると期待されます。

本件に関する論文が、令和4年(2022年)7月29日(金)AM9:05(日本時間)に、世界的に権威がある核酸に関する学術雑誌“Nucleic Acids Research”に掲載されます。

なお、本件についての報道解禁は、令和4年(2022年)7月29日(金)AM9:05(日本時間)とさせていただきます。各社ご協力のほど、よろしくお願いいたします。

  1. 本件のポイント

● 細胞内の不要なRNAを分解する際に、タンパク質「MPP6」が重要な役割を果たすことを解明

● MPP6は特定のRNA分解酵素の働きを促進し、MPP6がないと分解できないRNAもある

● RNA分解機構の全容解明や、RNAの蓄積を原因とする疾患の治療法開発につながることに期待

  1. 本件の背景

ヒトの細胞は約60兆個存在すると言われており、心筋細胞や皮膚細胞など、様々な機能を持つ細胞に分化しています。これらの細胞では、それぞれの細胞機能を適切に発揮するために、必要なRNAが合成されています。一方で、役目を終えたRNAを適切に分解することも必要です。分解する機能が停止すると、細胞内に不要なRNAやタンパク質が蓄積し、疾患の原因となることが知られています。

真核生物※1では、RNAを分解するRNAエキソソーム※2(以下、エキソソーム)という複合体が知られており、様々なRNA代謝を制御しています。エキソソームによるRNA分解機構の詳細は、まだ明らかになっておらず、エキソソームの不具合を原因とする疾患の治療法開発のためにも、解明が期待されています。

  1. 本件の内容

本研究では、RNAを分解するエキソソームの構成因子のうち、RNAに結合するタンパク質である「MPP6」(M-phase phosphoprotein 6)に注目し、細胞核内での役割を明らかにすることをめざしました。

まず、ヒト細胞内において、エキソソームを構成する因子について機能解析を行ったところ、MPP6は、核内において特定のRNA分解酵素の働きを促進していることが分かりました。また、MPP6がないと分解できないRNAがあることも明らかになりました。さらに、MPP6が分解対象としているRNAを、次世代シークエンス解析※3によって分析した結果、MPP6は短いRNAや、難抽出性のRNAなど、特定のRNAの分解を促進していることが明らかになりました。

このことから、ヒトの細胞内でのRNA分解の際に、MPP6が重要な役割を果たしていることが明らかになりました。本研究成果は、RNA分解機構の全容解明や、RNAの蓄積を原因とする疾患の治療法開発につながることが期待されます。

  1. 論文掲載

    掲載誌:Nucleic Acids Research(インパクトファクター:16.971@2021-2022)

論文名:MPP6 stimulates both RRP6 and DIS3 to degrade a specified subset of MTR4-sensitive substrates in the human nucleus

(MPP6は、RRP6とDIS3の両方を刺激して、ヒト核内のMTR4感受性の特定のRNAサブセットを分解する)

著者:藤原奈央子1*、重本真紀1、平山瑞季1、藤田賢一1,2、瀬尾茂人3、松田秀雄3

長浜正巳4、増田誠司1,5,6,7* *責任著者

所属:1 京都大学大学院生命科学研究科、2 藤田医科大学、3 大阪大学大学院情報学研究科、4 明治薬科大学、5 近畿大学農学部、6 近畿大学アグリ技術革新研究所、7 近畿大学アンチエイジングセンター

  1. 研究詳細

RNAを分解するエキソソームは、RNA分解活性を持たないコア※4と呼ばれる構造と、コアに付随するRNA分解酵素や、その他の補因子※5で構成されています。これまで、エキソソームの複合体を再構成する実験が試験管内で多数行われており、研究が進んできました。しかし、実際の細胞内では膨大な物質が複雑に作用しているため、試験管内の再構成実験だけでは、エキソソームを構成する因子の正確な役割は明らかにできませんでした。

ヒト細胞の核内においては、エキソソームのRNA分解酵素として、RRP6とDIS3※6が機能します。また、核にはTRAMP、NEXT、PAXT※7と呼ばれる補因子が存在し、分解するRNAをコアとRNA分解酵素に適切に運び込む役割を担っています。補因子を構成するタンパク質のうち、RNAヘリカーゼ※8であるMTR4※9は、これまでに見つかっている核内の補因子全てに含まれており、核内でのエキソソームによるRNA分解の鍵となることが判明しています。一方、本研究で注目したMPP6は、試験管内での先行研究において、コアとMTR4の間を物理的に橋渡しすることでRNA分解に寄与することが分かっていましたが、実際の細胞内での働きについては、明らかになっていませんでした。

本研究は、ヒト細胞を用いて、エキソソームによるRNA分解の際に、MPP6が果たしている役割を明らかにしました。まず、エキソソームを構成する因子について、それぞれの機能を大きく減弱させた際、RNAの分解にどのような影響がでるのかを検証しました。その結果、MPP6は核内で働くRNA分解酵素RRP6およびDIS3によるRNA分解のうち、MTR4が関与するRNA分解を促進することがわかりました。

次に、MPP6の主な機能として、コアとMTR4との間を橋渡しすることが知られていますが、RNA分解酵素であるRRP6も同様の役割を担うため、MPP6とRRP6の機能に違いがあるのかを検証しました。その結果、MPP6がないと分解できないRNAが存在することが明らかになり、RRP6ではMPP6の機能を完全に補完できないことが分かりました。これは、従来の試験管内の解析では得られなかった結果であり、多様な因子が複雑に関係する、実際の細胞内を用いて評価することで、初めて明らかになりました。

さらに、細胞内でのMPP6の機能についてより深く理解するため、MPP6が分解対象としているRNAについて次世代シークエンス解析を行いました。その結果、MPP6は、エキソソームが分解するRNA全般に働くのではなく、短いRNA、難抽出性のRNA、エキソソーム補因子の一つであるPAXTへの感受性を持つRNAの分解を促進していることが分かりました。

このことから、MPP6は、ヒトの細胞内においてエキソソームがRNAを分解する際に、特定のRNAの分解に機能していることが示されました。本研究成果は、RNA分解機構の全容解明だけでなく、不要なRNAの蓄積を原因とする疾患の治療法開発につながることが期待されます。